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10.07.2017

 中東欧の日本語教育を支えてくださっている皆様、いつもありがとうございます。  夏に「百人一首」というのも変な感じがするかもしれませんが、実は、7月1日と2日にハンガリーで「全国かるた選手権大会」が開催されました。ブダペストが中心ですが、ハンガリー全体から十数名が集まり、初日は個人戦、二日目は団体戦ということで、文字通り熱い戦いを繰り広げました。  残念ながら筆者自身は所用で見に行くことができなかったのですが、小学校5年生で、一応百首をすべて覚え、日本の全国小・中学生競技かるた選手権大会に出場したこともある長女が参加してはみたものの、まったく歯が立たなかったというのですから、相当なレベルだと思います。興味深いのは、優勝者は大学生で、専門は日本語ではなく、コンピュータということで、日本語が必ずしも流暢だというわけではない点です。ルールと決まり字をしっかり身につけ、適切な練習を行ないさえすれば、確実に上位に食い込むことができるのです。『ちはやふる』の中に、「かるたで日本一ということは、世界一ということだ」というような台詞があったかと思うのですが、そのうち国際大会が大々的に開催されて、上位を外国勢が占めるという日も近いのではないかと思います。  日本国内でも、この『ちはやふる』のマンガ・アニメ・実写版映画の人気でかるた人口が急に増えたということが言われています。50代後半の筆者が子供のころは、日本の都市化と核家族化が急速に進展する時代で、残念ながら百人一首には触れることすらなく幼少期を過ごしました。中学校の冬休みの宿題で三十首以上覚えなさいと言われて、過不足なく三十首を覚えたことを思い出します。その意味でも、メディアミックスの手法によるサブカルチャーの影響は大きいものを感じますし、それが世界に浸透していくのも不思議なことではないと思います。  常日頃から筆者は、文化交流は「本格」をぶつけなければならないと考えています。日本語教育ではよくかるたが使われることがあります。かなを覚えるという目的で使うのも悪くはないと思うのですが、内容的に子供っぽいものや、むしろ子供向けの語彙で作られたかるたなどは、成人の学習者にとっては、かえって逆効果になることもあるのではないでしょうか。  正月の遊びとして、文化紹介も兼ねて、いろはかるたを楽しむのは悪くないと思います。地域によって内容が異なるのを実際に見てもらえれば、学習者の興味も深まるのではないかと思います。一方で、競技かるたは、日本国内でルールが統一され、全国大会も開かれています。ちょうど柔道や剣道や空手などの武道がそれぞれの流派の違いを超えて全国展開し、やがて国際化していく過程に似かよっているのではないかと思います。そして競技かるたには、アニメ・マンガ・映画というソフトパワーによる強烈な追い風があります。その意味では、やはり学習者に、フィクションの世界ではない「本格」を体験してもらうことも大切であると思います。できるかぎり、競技かるたを生で見てもらうのがよいのですが、それができない場合は、競技の頂点に位置する名人戦やクィーン戦の映像を見てもらうとよいでしょう。そして、かるたを実際に行なう場合も、本物の百人一首を使って、できるかぎりルールに則った方法で体験してもらうのがよいでしょう。このとき、かるたを正しく読める読み手がいないと困るので、これにはぜひ「わすらもち」という本格的な無料のアプリをご利用ください。残念ながら、Android版とWindows版しか用意されていないのですが、競技のための練習には、かなりのレベルまでみなこのアプリを使っています。実は、競技を行なう以上に、競技かるたの読手どくしゅになることは困難です。それは、「競技かるた」読唱指南をご覧いただければおわかりになると思います。  13世紀前半に藤原定家によって編纂され、その後800年にわたり日本文化の重要な一端を担ってきた百人一首は、全100首のうち、四季の歌が32首春6首、夏4首、秋16首、冬6首、恋歌が43首を占めるという特異な構成をもっています。それ自体が日本文化の一つの典型を示しているとも言えるわけですが、その百人一首が、21世紀の今日、競技かるたとして日本の各年齢層ばかりでなく、海外の人々の注目も集めるようになってきたのは、本当に興味深いことではないでしょうか。  なお、ここで紹介するコンテンツの内容につきましては、国際交流基金ブダペスト日本文化センターが積極的に同意、支持などをしているわけではありません。様々なレビューなどをご参考の上で、各自のご判断でご利用ください。